■世界征服を君たちと




全ての生き物の頭上に等しく降り注ぐ光よ。







「ニャ……月が大きいニャ」

夜、珍しく目が覚めたおいらはアジトを出て近くの切り株に座る。

紺色の空には疎らに雲はあるものの
燦然と輝くお月様の舞台を邪魔しようとはしない。

「最近はこうしてゆっくり月を見ることも減ったニャー」

それもこれもロケット団としての仕事や資金作り為のバイトが忙しいせいだが。
自分達が未だ下働から出世出来ないのはジャリボーイのせいだと思うことにする。
既に何年追っているだろう。それでも、ピカチュウを諦める気が毛の先程も起きないのが自分でも少しおかしかった。
それは長く奴らを追う中で、まるで奇跡みたいな体験も何度かあったからかもしれない。










風が吹くと草木が揺れる。
寝静まった虫達のせいで風の音しかしない。

世界は自分一人を残してぐんぐんと夜が更けていく。

こんな夜なのに、月が眩しい。


「まんまるだニャー」



前に、もう一匹のニャースとこの月をみた気がしたが、そんな記憶はない。


…どこのどいつだったかニャ


「何してるんだ」

「ニャ、コジロウ…」

青い髪の男が、アジトのドアに寄りかかっていた。
規定の白い制服に上着を羽織った男は困ったように眉を下げながらも、何故か楽しそうに笑っている。

「哲学していたのニャ、男一人で考える時間も大切なのニャ」

「風邪ひくぞ」

うみゃ

コジロウのパーカーを頭から被せられる。
あったかいけどニャーには大きいニャ


こちらへ歩いてきたかと思えば、おいらの切り株の隣へ座る。
男一人の哲学だと言ったのにこれでは何時もと変わらないではないか。

男は何も言わず月を見上げていた。
おいらもつられて月を見上げる。


確かに夜の風はまだ冷たい。


コジロウが来て、声をかけられるまで気が付かなかった。





ふと横を見ると、切り株に座るおいらと同じくらいの位置に顔がある。

「ニャースはさ、月が好きだよな。」

意図の掴みきれない話題の切り出し方はこの男にしては珍しかった。

「ニャー、まんまるで綺麗だからニャア」


「俺たちロケット団も、近い未来で月に行くだろうな」


「…サカキ様は月に基地を構えるより強いポケモンと大金をお求めニャ」
この男は何が言いたいのだろう。
きっと月を征服しても費用がかさんで仕方ない。
博学才穎で計算高い我らのボスは採算の見込みの取れないことはしないだろう。



「それに月には先住民のうさぎさんがいるニャ」

ははっ
と、抱えた膝に顔を埋めて男が笑う。
「そんな話しを信じてるのか」

ニャースは子どもだななんて含んだ笑いを吐いて
あれはクレーターの影が云々と科学的な説明を始めた。


「ニャー、信じてるとか信じていないとかではないのニャ。こういうのはロマンの問題なのニャ」


コジロウは面喰らったような顔をすると

「じゃあさ、あの影はニャースな。」
ウサギよりさ、俺たちがいると思うよ。
もう一人の。

月に行ったら、楽しいだろうな。


我ら組織の入団理由には様々な過去や経緯があるが
ムサシやおいらと違い、お金や権力欲しさにこの組織に入ったわけではないコジロウは
他と少し思考のズレている所があって
こいつのほうこそロマンチストなのではないかと思う。

楽しさや自由といったそれが、男の目に映る夢なのだろうか。


「なら、あの影はコジロウニャ」
「ムサシは?」
「ムサシはあの伸びてる影ニャ」


「ムサシ怒るぞ」





隣の男は笑っている。
わがまま放題の女でも、月には一緒に行くんだろう。
当然のように三人一緒にいる未来を想像する自分たちはどんな関係なんだろう。




お月様は相変わらずおいらたちをみてる。

男の声が子守唄のように聞こえてきた。



そういえば、世界には自分にそっくりの人がいるんだって。
そいつらは一体どんな生活をして生きているんだろうな。
きっと似ていても、俺達とは違う奴らと連んでいて、違うものを見て
違うものに感動するんだろうな。

ムサシは…もう出会ってるか。
俺のそっくりさんがいたらどんな人生送ってるんだろうな。

なあ、ニャースは


ックシュ

「んニャァ……」

「戻ろう」




眠い目を擦るおいらとは対照的に
コジロウはなんだか機嫌が良さそうだ。
おいらが切り株から降りる前に、露に上着が濡れないようにと余った布を結んでくれた。


雨風に晒された年季のあるドアが軋む。
おいらとコジロウの重みで、歩く度木の床が短い悲鳴を上げた。

寝室に戻れば我らの女王様は一枚しかない毛布をグルグル巻きに独り占めしていびきをかいている。
仕方がないので崩せる端から毛布を崩して、コジロウと共に中に入った。

「んぅ………バカ…入るとき空気入れないで…寒い……」

「寝てるくせによく悪態がつけるニャ」

コジロウを見れば先ほどと同じ、困ったような、楽しいような顔でヘラヘラしている。

こいつも随分変わったニャー


と思ったけれど、
こちらの地方に来て直ぐ、薔薇を持たなくなった理由を聞いた時に
「シュウってジャリガキとキャラが被るだろ。俺そういうのは嫌なんだよ。」
俺だって草ポケモンへの愛はあるのに。
と子どもじみたことを呟いていたから、相変わらずの見せ掛け重視な性格だ。
変わっているようで変わっていない。


「ニャース、もっとそっちよってくれよ」

三人で同じ毛布で眠る。
ぐっすり寝ているムサシの顔を見ていると、訓練所時代に強張っていた顔の面影はもうない。








「もう仲間を…失いたくないんだ…!」

あの時
手を掴んだムサシの声には沢山の思いが詰まっていたのだと思う。




おいら達は互いの生い立ちをそこまで話し合う方ではないけれど、これからもこの三人でやっていくんだろうという気がしている。
それはもう確信に近く






「ニャーがペルシアンの座を奪う頃には、おみゃーらも手柄を立てて、精々サカキ様の右腕にでもなるにゃ」


君たちと離れたくないから。

なんて、もう両隣りとも夢の中。











「………ニャーも寝るかニャ」



カーテンのないアジトの窓から
月の光が優しく差し込む。


質素な木枠に月明かりが反射して
空に映るお月様を絵画みたいに切り出した。

三人で月に行く夢を見る。
月で一番大きなクレーターにRの旗を掲げよう。






























君と同じ月をみている。
違う仲間と






「にゃー」

遠くの街で、もう一人の自分の声が聞こえた気がした。


2016.04.12

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