■運命



ずっと、一人きりなのだと思っていた。



今日も私達は取れた木の実を分け合いながら会議中。
「ニャ!ムサシずるいニャ!一番大っきいのを取っていったニャ!」

「にゃーにゃーにゃーにゃーうるっさいわよ!レディがお腹空かせてるんだからこのくらい譲りなさい。男意気のない奴ね」



森に空に、かんかん照りの太陽。

「ニャース、諦めろよ。今に重いカミナリが落ちるぞ」
遅いわよ。

「ハニャッ」

私のメガトンキックを喰らいなさい。
ニャースは頭を押さえてる。痛い痛いなんて情けない。
食事中にネチネチ五月蝿いのがいけないんだわ。

「さーて、早速作戦に取り掛かりますか」

食べ終わって口元を拭けば座っていた石から立ち上がってガッツポーズ。
やる気を出すには形から入るのが一番よ。

今日の作戦はコジロウが変装して、ジャリボーイの輪に入り込み油断させるというもの。
ジャリボーイ達は助けた老人の誘いによって、この森の先で優雅なホテルのパーティーだというから、私よりこいつの方が立ち振る舞いが出来るだろうと思っての作戦だ。


昨日の内に本部から届いたメカの整備も完璧。
今日こそ作戦を成功させる。
いつも負けてばかりじゃいられないのよ。

先日本部に戻った際に憎らしい金髪の女に成果も出せない下っ端チームと笑われた。腹立たしさはあるが私だってアイツが気にかけて声をかけてくれてることくらい分かる。
実力主義のロケット団で窓際に追いやられていると思っているんでしょうけどそういう所が有り難迷惑なんだわ。

私は過去の異名に戻りはしない。



「わっひっぱるなよムサシ」
こいつの手足は本当に細い。
女優の私程ではないが
女装は私も認める程に可愛いし、そんじょそこらの女よりも綺麗な顔をしている。本当に男かと疑いたくなるくらい。

私の好みではないけれど、寧ろそれが良かったと思う。


「ほらこっち向きなさい、メイクが崩れるでしょう」

素敵な恋に夢見る乙女だけれど
今の私には結局仕事が一番肌に合うんだ。
こいつとパートナーでいることは居心地が良い。


「これでバッチリよ。行きましょう」





そこらで折った枝を両手に持ち、草木の間から観察する。
ニャースは私の隣り。
相方とは二手に分かれて行動開始だ。

変装したコジロウがジャリボーイ達に近づく。
私達の変装は見事な腕で今回だって勿論バレない。
ジャリボーイ達は人の良さからコジロウの言うことを鵜呑みにしているようだった。
長く旅をしている癖に人を疑おうとしない心はあの少年特有のものなのか、子どもだからかは分からないが
こちらにとって好都合なことには変わりない。

コジロウはジャリボーイの輪に上手く取り入った。
笑顔で対応している。

逃げ続けてきた人生だと、アイツは言ったけど
なら今此処にいる私達は
私達なりに
闘っていることにならないだろうか。

「良い調子ね」
「ニャー達も追うニャ」

木々に隠れながら移動する。
緑の生い茂る森では動く度に体に触れる草木が揺れるけど、ジャリボーイ達は気づいていないようだった。

30分程歩いた所で森が開け、ちょっとした町が見えてくる。
小さな町に似つかわしくない、城のようなホテル。
私には理解できないが、生まれが財閥の相方にとっては別荘の一つと同じ程度の感覚だろう。


老人に案内され、入っていく一行を見届けた後ニャースとともに裏口から進入する。
天井裏に登ると、シャンデリアの隙間から大広間が見えた。
礼装に身を包んだ男女が楽しそうに笑いあっている。

こいつらはみんな幸せなんだと思うと
沸々と、この笑顔を壊してやりたいという思いが渦巻いてくる。
黒い感情は私を支配すると同時に、自分がロケット団に入っていることを誇らしく思わせてくれた。


捨てられたのか、預けられただけなのか
親戚をたらい回しにされて親の愛情を受けず育った。
母について覚えているのは美しい薄紫の髪とミヤモトの性だけ。

どこに行ったのかも分からない親を恨む気持ちは勿論
食べるものにも困るような生活をしていた私にとって、相方の言う運命は喉から手が出る程羨ましいものだったけど
ふとした折に私の身の上を話した時のコジロウは、口にこそ出さないながらも心底羨ましいって目をしてた。

嫌味じゃないのはわかるから気にはしていないが、私にはあいつの気持ちは分からない。


大広間を観察していると
暫くして老人から貸して貰ったのであろう礼装に身を包んだジャリボーイ一行も入ってきた。ここからでは声は聞こえないが、女装のコジロウも一緒だ。


「第二段階に移るわよ」
作戦を成功させてこのパーティーに参加している奴らのポケモンを全て奪い取ってやるわ。



コジロウは会場の注意を引く様に壇上でバイオリンを持つ。
作戦会議の段階では暫くやっていないからと本人は乗り気じゃなかったようだけど

「ニャー、流石はコジロウ演奏も完璧ニャ」

上手い具合にパーティーの注意をひけたようで安心する。


「何よ、私だってあれくらい」

私は飲み込みが早いから
ホウエンで始めたコンテストだって
トライポカロンだって、良い調子で成果を伸ばしてる。
過信ではなく、楽器の演奏だって手本を一度見ればそれなりには弾けると思う。

が、確かにコジロウの音色は上品なものだ。
良し悪しの分からない自分にも、上手いのだろうということは伝わる。


「ほら、聴き入ってないで次のセクションに移るわよ」

ぼやぼやしているニャースの尻を叩く。
この内にメカを起動させなければ。


ポケモンの知識もあり、メカも作れて、バイオリン、ピアノを筆頭にある程度弾けるみたいだし、気の効いた小回りもできる。
このチームはコジロウがいないと細かい仕込みは進まない。
こういう奴のことを教養があるって言うんだわ。

天井裏まで響くバイオリンの音色を聴きながら動く。


ピアノに憧れた少女時代、一度も触れられなかった私とは大違い。
大違いだ。


二人に引け目は感じない。
くよくよしがちなこいつらを引っ張っていけるのは私しかいないと自負しているから。
それでも、たまに何故あいつは待つ親の元にも帰らず暖かいご飯もベッドもかなぐり捨ててロケット団にいるのかと思う時がある。

まああんな鬱陶しい許嫁いたら逃げもするか。
私だったら豪邸にゴージャスな食事、金持ちとくればそんなの気にならないけど。


私たちはチームだから
共にあることを無理強いはしない。

誰かが恋に落ちても
誰かが仲間を見つけた時も
自分の道を進むというのであれば、私たちは互いに止めはしない。

「所詮、チームだし。」

みんなそれぞれの幸せを考えて一歩引く所がある。
けど、それでも、解散なんかしないで今までやってきているのは


「ニャ、ムサシ疲れているのニャ」
本当にお腹が空いていたのか
頭でも痛いのか
なんて、おろおろして気を回そうとするから
ポケモンのくせに生意気よと思って強く頭を撫でた。

痛いニャーなんて聞こえてくる。
「なんニャ、元気じゃにゃぁか」

好きよ。

恋じゃない。けど、愛には近い。
腐れ縁よかもう少し上。
家族でもない私達は
仕事上のパートナーで、チームだ。


「あんたより前を動いてる私に元気がないとは良く言うわ。ニャースこそこのメカさっさと起動してよね。」

それでも、手に入る位置に平凡な日常をちらつかされても
蹴り飛ばしてこいつらと無謀な挑戦に挑みたくなる程には





ヴゥン

振動を起こすような低音を出してメカが動き出す。予めホテルの地下に隠しておいたものだが備え付けのドリルが回ると更に大きな音が出た。

動作を確認するとニャースに続いて上のポッドからコックピットに乗り込む。
メインコントロールはメカの操縦が得意なニャースに任せて私は左の席に着いた。
ニャースがドリルを前に突き出すと如何にも高級そうな壁が無惨に抉れて残骸と化していく。こんな風に、今に上にいる金持ち共もメタメタのギタギタにしてやるのだと思ったら気持ちが高揚した。




大きな破壊音と衝撃により幸せなムードは一転する。

「ワーッハッハッハ」


大広間の真ん中には穴。
私達は作戦通り。
会場は大混乱。
この騒ぎを私達が起こしているんだという快楽。

優雅なダンスの音楽も止み
壊れたホテルの床は埋め込まれた大理石が粉々に砕けて煙を出している。

騒めく会場の中でも
一体なんなの
というジャリガールの声を聞き逃す私じゃない。

ここぞとばかりにメカのポッドを開けて姿を現す。
口上を述べる為にわざわざ出ていく必要はないと言われようがなんと言われようが
これが私達のポリシーなのだ。

「一体なんなのと聞かれたら」

合図をせずともこちらを見ている相方は
上手く進んだ作戦に気分が良いようで悪役らしい笑みを崩さない。

脚力でこちらまで飛んで来る。

「答えてあげるが世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ!」
「コジロウ!」
肩にかかったファーを掴むとコジロウの変装が解ける。
私たちの早着替えは特技の一つに入れていいと思う。

「銀河を駆けるロケット団の二人には」
「ホワイトホール 白い明日が待ってるぜ!」

ニャーんてニャ!

決まった。
正直これを邪魔されると調子が狂うから今回も無事言い切れて良かった。

「ロケット団!」

ああ、良い。
慌てて逃げていく金持ち共の顔が気持ち良い。
そうよ不幸せになりなさい。ただし…

「この会場のモンスターボール、全て戴いてくわよ!」

電撃対策はいつもの事ながら万全。
死角はない。
メカのボタンを押せば後ろのハッチが開いて特大の吸引器が伸びる。

「このまま吸い尽くしてやるわ」






奴はいつからいたのか

「ユーの相手は私がしますよ」
と、渋い声と共に何処で見たことがある派手な格好のオッさんが出てきた。
派手なスーツを着こなして私達の前に立つ。


「アダンさん!」
嘘、なんでホウエンのジムリーダーがこんな所にいるのよ

あ、ミクリとかいう奴がルネシティのジムリーダーに再就任したとか聞いたかも。

考えている間にオッさんは毛並みの良いニョロゾを出してきた。

「あ、ヤバ」
と思った時にはもう遅く。
ジムリーダーの指示と同時にニョロゾのハイドロポンプが飛んでくる。

激しい水圧にメカと私達の身体は壁に叩きつけられる。
流石ジムリーダーのポケモン、私達で無ければ壁に叩きつけられた衝撃で骨でも折れていたでしょう。
とはいえ身体の節々は痛いしびしょ濡れだ。

「んにゃろ…」

「いけっマーイーカ!」

私もコジロウに続いてパンプジンを出す。
後ろのメカはお陰様で大きなへこみが出来ていて、体制を立て直すことも難しいだろう。
よくも…

「マーイーカサイケこうせん!」
「パンプジンシャドーボール!」

いつものように泥試合になると、自ずと結果は見えてくる。
私達のポケモンも頑張ってくれてはいるけれど
長年狙い続けているだけあって流石に強いピカチュウと、オッさんのニョロゾに真っ向勝負では歯が立たない。


「お前らもう許さないぞ、ピカチュウ10万ボルト!」


小さいながら私達を見る目はジュンサーさながら
その真っ直ぐな瞳はいつ曇るんだろう。

ジャリボーイの一声で案の定電撃を喰らう私達。
ピカチュウの電撃には慣れたけど痛いものは痛い。頭が白黒して意識が飛びそうになる。ハイドロポンプも食らった分いつもより威力は倍増で、洋服が含んだ水は熱を持ち皮膚も焼けるように痛い。

1分くらいに感じた電撃だがそんなことも分からなくなりそうになった時、後ろのメカが爆発した。
爆風とともにメカの破片が飛んでくる
制服が破れて皮膚が擦れる。
一際大きな煙が出たかと思うと大きな破壊音と共に私達は上空に吹き飛ばされていた。


ああもうこれはお決まりの

「嫌な感じ〜!」



言わなくて済むなら言いたくない。
今日こそ成功させると意気込んでいたからこその本心だ。
既にジャリボーイ達は見えなくなった。
今日は何百メートル飛ばされるのかしら。















太陽の眩しさが瞼すら突き抜けてくる。
身体中が痛い。

私を呼ぶ声が聞こえる。

「おい、ムサシ」

目の前には相方の顔。
馬鹿、近いって。

「…あれ?ニャースは」


「どうやら気を失っている間に別の所に飛ばされちゃったみたいだな」


周りを見渡すと岩と砂ばかりの小さな山だった。
飛ばされることはよくあっても、バラバラに墜落することはそんなに多くない。

幸せが逃げるとわかっていてもため息がでる。
あんな辺鄙なホテルのパーティーにしかもホウエンの元ジムリーダーが紛れ込んでいるなんて予想外だった。


「とりあえずアジトに戻ろう。闇雲にニャースを探すより良いだろう」
パンプジンもニャースと一緒だといいな

本当だ。
パンプジンもいない。
ああもう頭が痛い。手足も痺れる。
次こそ見ていなさいよジャリボーイ。それにあの忌々しいジムリーダーも。

立ち上がって砂を払う。
砂けむりが上がったけど気にしない。
「アジトは何処よ」
「うーん、ここからだと東かな」

ポケットから地図を取り出す相方の肩越しに自分でも確認する。
最悪…遠い…



ニャース気球も今日はないし、歩いて戻る。
肩が痛いとかそれは歳だからとか、そういえばマーイーカが今日は頑張ってくれたとか、
くだらない話しをしながら進んでいく。

くだらない世間話ついでに、何故別荘や実家に帰らないのかを聞いてみようとも思ったが
空気が重くなるのは好みじゃないから頭の隅から追いやった。



熱いなー


後ろから聞こえる声はこの日照りの割に軽めだ。

「あんたテンション高いわね。」
今日も作戦は失敗したのに。
「幹部昇進したら空調の効いた良い部屋設けてもらおうぜ」


ニャースといい、こいつといい
なんでこうも口に出していないことがばれるのか。

「…次こそ絶対成功させるわよ」

「ああ、ムサシ。」



言わなくても分かってるわよ。


顔に出ていたのか、相方は何も言わない代わりに珍しくガキみたいな笑顔を見せてきた。


「明日さー、みんなで海に行こうよ。」

マーイーカも喜ぶだろうしと続けられて、それが目的だろう、舌の根も乾かないうちに幹部昇進の夢はどうしたと責めてやりたかったが

頭がクラクラした。
雲ひとつない天には相変わらず眩しい太陽。
何よ、私の上に立っちゃって。






「ああ暑い!」


太陽がウザいから、行ってやってもいい。

相方はさっきと変わらない笑顔で

「楽しもうな」

と笑った。


知っている。
ニャースにだって聞かなくても分かる。
みんな同じなんだ。



それからは特に喋ることもなく
コジロウと二人
傾いていく太陽と、オレンジ色に染まっていく空を眺めながらひたすら歩いた。








「ニャー!おみゃーら遅いニャ!」

空がそろそろ紫色に染まる頃
アジトに帰ればニャースがパンプジン達の面倒を見てくれていた。
大したことは無いだろうとふんでいたが、万が一仲間が怪我をしていたらと思わないわけはなかったから、文句を垂れる顔を見て少しほっとした。

「逸れて心配だったんだろニャース」
「ニャーは腹が減っただけニャ!」

バラバラな所で生まれた私達は
理不尽な運命と闘う為に抗って、この組織として一つになった。

「女優の私が歩いて戻ってきてやったのよ、ケチつけないでよね」

運命と闘う。
悪役にはバッドエンドしかないなんて誰が決めたの。



「今日の料理当番はムサシニャ。戻りが遅いからパンプジンと腹を空かせて待っていたのニャ」

「あーっもうゴチャゴチャ五月蝿いわね!作るわよ!作る!それより、明日は全員で海に行くわよ。」

ポケモンたちはびっくりした顔しちゃって。少し可愛いと思ってしまった。
いいんだ。
ジャリボーイとは因縁があるから、仕事と思って探さなくても会えるような気さえしてくる。

「もう決定したから。潜水艦調整しておいてよね」

結局仕事する気満々だとか、後ろからブーイングが飛んでくるけど聞こえないふり。


後ろ向きじゃ進めないから
明るい未来に向かって前を向く。


この仲間たちと進む。






見ていなさいよカンカン照りの太陽め
いつか月を征服した暁には
我らロケット団が太陽すらも征服してやる。



「明日があるさ」

そう呟いて
幸せを勝ち取る。



2016.04.08

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